改正風営法:第18条の3(客の正常な判断を著しく阻害する行為の規制)
改正風営法により新たに追加された条文の通達は「ホストクラブをはじめとする接待飲食営業に対する徹底した指導監督を通じてその業務の適正化を促進し、客の被害防止を図るほか、取締り等のあらゆる警察活動を通じてホストクラブ、スカウトグループ、性風俗店等による搾取を前提とした収益構造について情報収集・分析を徹底し、その実態を解明するとともに、悪質ホストクラブのビジネスモデルの解体及び最終的に利益を得ている実質的な責任者やグループ全体の取締り、排除等を進められたい。」という警察庁生活安全局長の本気度が感じられる文言によりスタートします。その中から第18条の3(客の正常な判断を著しく阻害する行為の規制)について記事を書いていきます。
料金に関する虚偽説明の禁止
第18条の3は、キャバクラやホストクラブなどの風俗1号営業において、接待を通じた客の判断能力の低下や恋愛感情により店の接客従業者が優位な位置関係にあることに乗じて、客から不当に利益を巻き上げることを防止するため、客の正常な判断能力を著しく阻害するような行為を規制するものです。
(以下、太字は条文・解釈運用基準から引用。)
一.第十七条に規定する料金について、事実に相違する説明をし、又は客を誤認させるような説明をすること。
・「第十七条に規定する料金」とは、メニュー表などに記載されたセットメニュー・指名料や飲食料金などの「遊興料金」のことです。②③は、ボッタクリの規制を図る者です。主に条例で規制されていたところ明文化されました。
・②は、実際はSET料金1時間6,000円のところ、3,000円などと説明したりする行為をさし、わかりやすいと思います。
・③は、料金説明は適正価格6,000円と説明したところ、客が3,000円しかないと告げた際に、客を料金に関して安心させ入店させ、客の手持ち以上の会計をせまる場合が想定されます。
客の恋愛感情等につけこんだ飲食等の要求の禁止
二. 客が、接客従業者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、当該接客従業者も当該客に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、これに乗じ、次に掲げる行為により当該客を困惑させ、それによつて遊興又は飲食をさせること。
イ 当該客が遊興又は飲食をしなければ当該接客従業者との関係が破綻することになる旨を告げること。
ロ 当該接客従業者がその意に反して受ける降格、配置転換その他の業務上の不利益を回避するためには、当該客が遊興又は飲食をすることが必要不可欠である旨を告げること。
・風営法の改正にあたり、かなりの会議を重ねたようで「色恋営業」というものを完全に把握して規制を設けています。
・解釈運用基準によれば「恋愛感情その他の好意の感情」とは、好きな気持ち、親愛感のことをいい、例示として挙げられている恋愛感情のほか、憧れの感情等も含まれる。とされ、色恋営業だけに留まらず、「友営」も規制していると感じられる内容となっています。
(解釈運用基準)
・ 「恋愛感情その他の好意の感情」とは、好きな気持ち、親愛感のことをいい、例示として挙げられている恋愛感情のほか、憧れの感情等も含まれる。
・「同様の感情」とは、客が抱く「恋愛感情その他の好意の感情」と同一である必要はなく、客の感情に相応する程度の感情を接客従業者が抱いているものと客が誤信していればこれに該当する。
すべてを把握した上で解釈運用基準はさらに続きます。
.「これに乗じ」とは、客が、接客従業者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、当該接客従業者も当該客に対して同様の感情を抱いているものと誤信している状態を利用し、それにつけ込むことをいう。そして、客が接客従業者に対して好意の感情を抱いている中で、当該接客従業者が当該客に対して同様の感情を抱いていると思わせるような言動をしながら、同号イ又はロに掲げる行為を行った場合には、接客従業者が客の好意の感情及び誤信を知りながらこれを利用する意図があったと推認され、「知りながら、これに乗じ」の要件を満たすこととなる。
条文を参照しながら解釈運用基準をここまで読み進めていくと
①客が接客従業者に対して恋愛・親愛・尊敬等の何らかの好意を抱いている
②接客従業者も客に対して同様程度の感情を抱いていると客が勘違いしている
③そんな中で接客従業者が思ってもいないのに「同様の感情を抱いていると思わせるような言動をしながら」
④条文中のイまたはロに該当するような行為を行なった時に本条違反があったと推認される。
と読めます。
つまり、色恋営業や友営などを行なったとしても以下の2点を行なわなければ本条違反は成立しないことになる。
・イ 当該客が遊興又は飲食をしなければ当該接客従業者との関係が破綻することになる旨を告げること。
・ロ 当該接客従業者がその意に反して受ける降格、配置転換その他の業務上の不利益を回避するためには、当該客が遊興又は飲食をすることが必要不可欠である旨を告げること。
ところで条文は、接客従業者の客に対する感情が嘘である前提の元に話しが進められていると感じる(当該接客従業者も当該客に対して同様の感情を抱いているものと誤信して...など)。接客従業者のなかにも「私が客に対して有している感情は真実である」といって言い逃れしようとする場合もあるでしょう。客の好意の感情につけこんでイ・ロに該当するやり方で金銭を使用させておきながら...。しかし、悪質営業問題を知り尽くしている立法者は、解釈運用基準で先手を打っている。
接客従業者が客に対して真実の好意の感情を有しており、当該客は誤信していないと主張したとしても、当該接客従業者が当該客以外にも好意の感情を抱いていると思わせるような言動をしながら営業を行っていたこと等が認定された場合には、当該接客従業者は当該客に対して真実の好意の感情を有しておらず、客に誤信があり、それを知っていたと推認することができる。
みんなに同じことやってるなら営業行為の一環だよね。真実の好意の感情じゃないよね。という内容となっており悪質営業者を一蹴しています。
肝心のイ・ロの内容ですが、イに関しては解釈運用基準では特になにも触れていません。読んで字の如しという事でしょう。ロに関しては「降格、配置転換その他の業務上の不利益」には、例えば、営業所内における序列の降格や遠隔地への左遷のほか、減給や報酬の減額等がこれに該当する。とあり一般的な内容が記載されています。
解釈運用基準はここにきて「推し活」へと話しが進みます。
いわゆる「推し活」の一環として接客従業者に対し「好意の感情」を抱く客に対する接客従業者の行為についても、法第18条の3第2号の要件を満たせば同号の規定に違反することとなる。
こちらがまったく好意をある風を装わず、客が勝手に一方的に「推している」状態にあっても、そこにつけ込んで不当な暴利を上げてはいけないというこでしょう。
警視庁HPに、改正にあたり行なわれた有識者会議の主な内容が記載されていますが、人生経験の少ない脆弱な女性をいかに守っていくか議論されている様子が伺えますが、そんな姿勢が現れている文面だと思います。
客が注文していない飲食等の提供
ではラスト。第18条の3、第三号です。
客が注文その他の遊興又は飲食の提供を受ける旨の意思表示(第二十二条の二第一号において「注文等」という。)をする前に遊興又は飲食の全部又は一部を提供することにより、当該客を困惑させ、それによつて当該遊興をさせ、若しくはしたものとさせ、又は当該飲食をさせること。
ここも文面の通り、客が注文という意志表示をしていないにもかかわらず店側が勝手にシャンパンを入れる場合などであり、解釈運用基準には具体例が具体的に記載されている。
○ 客が注文等をする前にシャンパンタワーを組み上げることにより、客にシャンパンタワーの実施に渋々応じさせ、それにより醸し出される歓楽的雰囲気を享受させること
○ 客が注文等をする前にシャンパンコールを実施し終えることにより、客にシャンパンコールにより醸し出された歓楽的雰囲気を享受したものとさせること
○ 客が注文等をする前にシャンパンボトルを開栓することにより、客にシャンパンの注文に渋々応じさせ、飲酒させること
断りづらい既成事実を作り上げたり、客側の好意等による接客従業者が優位の関係性において勝手に開けたシャンパンを無理矢理注文させたりするなどの行為を規制する内容が記載されています。
違反の効果
本条違反の効果は
量定区分 B 40 日以上 180 日以下の営業停止命令。基準期間は、90日
となっています。
本条違反には逮捕・罰金の定めはないため風営法の処分基準が適用されます。もっとも場合によっては詐欺罪や恐喝罪などが適用される可能性はあるでしょう。ちなみに量定区分Bは重い方です。次のAは最も重い許可取消し。Gなどの軽い場合は注意で終わります。
終わりに
警視庁HPの「悪質ホストクラブ対策会議」の資料に「20歳ぐらいの人が、訳も分からないで酒を無理やり飲まされて、その代金が非常に高額であるというところに問題がある。」という意見が記載されていたが、なんというかその会議の場にいるべき人間の発言ではないと感じる。SNSが発達した現代社会において若年女性のホストクラブ等の夜の世界のへの入口はかなり身近になっています。TOP画が本人の顔写真を載せていれば高い確率でホストからフォローされ、勧誘されます。私は夜職の方々と話す機会がかなり多いですが、接客の達人である彼ら彼女らは皆話術が巧みで男女問わず魅力的な人物が多いです。そういった夜の接客のプロが高額な売上を上げるために本気で接客するのですから人生経験の浅い若年女性が抗えるハズがありません(むしろある程度年いったおじさんこそダメ)。そのような原状を理解せずに「20歳にもなって...」という意見は出てこないでしょう。
今回の規制は、夜職の側にとってもある意味で自分を守る材料とならないだろうか?それは色恋営業は接客従業者側にとってもリスクとなる場合があるからだ。客も最初は遊びだったかもしれないが客によっては「ガチ恋」と言われる本気で接客従業者を好きになっている状態に到達してしまう場合がある。そうなるとサラリーマンでもなんでも貯金を崩して継続してある程度の高額を勝手に使っていく状態となってしまい、高額使ってるのに接客従業者が一向に自分を好きになってくれないことに憎悪を感じ、場合によっては事件に発展する。
・2025年 浜松ガルバ刺殺事件
・2024年 新宿タワマン刺殺事件
・2024年 新橋ガルバ店員殺害事件
・2023年 博多駅前女性刺殺事件
・2019年 新宿ホスト殺人未遂事件
業界がクリーンであったり安全である必要はないのかもしれない。むしろ危険で時折世の中の闇が垣間見れるからこそ夜の世界は面白いのかもしれない。それでも今回の法改正で業界の一部の従事者が「搾取を前提とした収益構造」「客の判断能力の低下につけ込んだ営業」と国から烙印を押されたことに関して業界としては何を思うのであろうか。