改正風営法:歌舞伎の看板を黒く染めた通達

『上半期売上No.1!』『売上3億!』『○○に溺れろ!』『億男!』

 煌めくイケメンが印刷され、いろいろとバブリーなワードが表示された歌舞伎町の名物『ホス看』。今年の6月終わり頃、そんなホス看を業者の高所作業車が黒く染めていきます。ホス看には黒い空きスペースも目立つようになり何かが変わったことが誰でも理解できました。もともと風営法には16条(広告及び宣伝の規制)というものがあり営業所周辺の環境を害するような広告宣伝は禁じられていましたが、この度の改正風営法の立法趣旨を踏まえて、風俗営業のうち特にホストクラブ等の接待飲食業の広告宣伝の規制について新たな運用指針が示されたのです。いったいどんな内容となっているのか見ていきたいと思います(以下、太字は条文・通達等から引用)。

広告及び宣伝の規制違反に該当する類型

 通達では、接待飲食営業における接待により作出される歓楽的・享楽的雰囲気というものが客の判断能力を低下させたり、恋愛感情と相まって重大な料金トラブルが発生している状況であるため、歓楽的・享楽的雰囲気が無制限に拡散し善良な一般社会に及ぶことを防がなければならないとし、特定の文言を『著しく客の遊興若しくは飲食をする意欲をそそり、又は接客従業者間に過度な競争意識を生じさせ、営業に関する違法行為を助長するような歓楽的・享楽的雰囲気を過度に醸し出すもの』として規制すべき文言のパターンを示しています。

(1) 接客従業者の営業成績を直接的に示す文言の表示
例:「年間売上〇億円突破」、「○億円プレイヤー」、「指名数No.1」、「億超え」、「億男」

(2) 営業成績に応じた役職の名称等の営業成績が上位であることを推認させる文言の表示
例:「総支配人」、「幹部補佐」、「頂点」、「winner」、「覇者」、「神」、「レジェンド」、「新人王」

(3) (1)及び(2)以外の「ランキング制」自体の存在、接客従業者間での優位性を裏付ける事実等の接客従業者間の競争を強調する文言の表示
例:「売上バトル」、「カネ」、「SNS総フォロワー数○万人」

(4) 客に対して自身が好意の感情を抱く接客従業者を応援すること等を過度にあおる文言の表示
例:「○○を推せ」、「○○に溺れろ」

 ここで素朴な疑問なのだが、源氏名そのものが『億男』(おくお)だとか『支配 仁』(しはい にん)やら『神 光琳』(かみ こうりん)という名前だとどうなるのだろうか?いや、こんな名前だと売れないから問題ないのか?

広告宣伝の規制はどこまで及ぶのか?

 法16条(広告及び宣伝の規制)は、営業所周辺の善良な風俗環境を守ために刺激の強い看板を置くのは辞めようという規制でした。では屋内ならなにやってもいいのでしょうか?施行規則第7条は『善良の風俗又は清浄な風俗環境を害するおそれのある写真、広告物、装飾その他の設備を設けないこと』と定めており、営業所の内部に設置された広告物であっても、善良の風俗を害するおそれのあるものは設置してはならないとされています。また法第12条(構造及び設備の維持)では、『風俗営業者は、営業所の構造及び設備を、法第4条第2項第1号の技術上の基準に適合するように維持しなければならない』としていることから営業開始後に、『著しく客の遊興若しくは飲食をする意欲をそそり、又は接客従業者間に過度な競争意識を生じさせ、営業に関する違法行為を助長するような歓楽的・享楽的雰囲気を過度に醸し出す広告物』を設置した場合は、12条の構造及び設備義務違反に該当することになります。
 ちなみにネット環境ですが、規制の多少とはならないと通常考えられています。16条は営業所周辺の屋外を想定した規制だからです。なのでSNSや動画配信での広告も基本的には問題ありません。しかし、今ではどの店舗もなるべく危険な文言はSNSでもいれないようにしている傾向にあるようです。

違反の効果

法第12条 構造・設備維持義務違反
法第16条 広告・宣伝規制違反

量定区分 D
10日以上80日以下の営業停止命令。基準期間は20日。
原則として指示処分前置。

となっています。
違反によるその他罰則はありません。
量定区分Dというのは全8区分のうち上から4つ目に当たります。

終わりに

 この記事を書くにあたり今ホス看がどうなっているのかTikTokで見てみましたがほとんど埋まってるみたいです。
私も改正前に歌舞伎町に行く機会があったのでリアルホス看を見たことがありますが、ああいった独特な世界観の看板はもう見ることはできないので、そう思うと貴重なものを見れましたね。
 広告を規制するということで憲法で保障されている表現の自由・営業活動の自由との対立もありますが、憲法には『公共の秩序』という概念があります。すなわち、皆が皆自由を主張したら自由同士が衝突して逆に混乱を招いてしまう。だからお互い気遣って自分だけ自由を乱用してはいけないよという考えです。社会や地域との共存・共生を前提とした営業活動や、構成員の人格教育など、これまで取組んでこなかったアプローチがホスト業界の次の未来を創っていくのではないでしょうか。