遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(省略)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
民法1416条 遺留分侵害額の請求
こういった場合を想像して頂きたい。
父が80歳でなくなった。残されたのは75歳の妻と、50歳と47歳の子二人(法定相続人)。父の財産は現預金だけで1億には達する。行政書士に遺産分割手続きを依頼したところ公証役場の遺言検索システムから生前に父が残した公正証書遺言がみつかった。父が残したまさかの遺言。家族で恐る恐るのぞき込むとこのようにあった。
第1条 遺言者は、遺言者所有の財産の全てを○X△□に遺贈する。
その一文を見たとき、家族の心は共通の疑問により一つとなった。
誰?
そう。○X△□は父が密かに長年連れ添った愛人だったのだ。父は公正証書によりその財産のすべてを愛人に遺贈したのだった。
※実際には愛人に財産のすべてを相続させるような遺言は公序良俗に反し無効となるが今回は解りやすいケースとして利用した。
上のケースのように、故人が遺言や贈与により全財産を親族でもない第三者に与えた場合、他の相続人には何の権利も保証もないのだろうか?
民法では、被相続人にその財産を自由に処分することを認める前提として、被相続人の兄弟姉妹を除く近親者である相続人に対して遺産の一定割合については確保されなければならないとされています。それを遺留分といいます。
遺留分とは
まず、兄弟姉妹には遺留分がありません。被相続人はこれらに対しては遺産の一定割合を確保する必要はないのです。
その他の相続人は遺留分を算定するための財産の価額に
①直系尊属(被相続人の両親)のみが相続人の時 3分の1
②それ以外の場合 2分の1
を掛け算した金額とされており、これを総体的遺留分といいます。
上のケースだと、②に当てはまるので父の遺産が現預金1億円だとしたら総体的遺留分は5,000万円ということになります。
相続人一人あたりの遺留分はいくらになる?
各相続人は、総体的遺留分に各自の法定相続分に応じた権利を有することになります。つまり上のケースでいくと
総体的遺留分:5,000万円 ※括弧内は法定相続分
母(2分の1)=2,500万円
子(2分の1)=2,500万円
※今回は子が二人いるので、各1,250万円づつとなる。
以上が各自の遺留分、すなわち個別的遺留分となります。
遺留分を算定するための財産の価額とは
遺留分を計算するための財産の価額の決め方ですが
被相続人が
相続開始の時において有した財産の価額に
その贈与した財産の価額を加えた額から
債務の全額を控除した額
とされています。
遺贈された財産は「被相続人が相続開始の時において有していた財産」に含まれますから、その遺贈額の全てが「遺留分を算定するための財産の価額」となります。その他には遺贈の他、生前贈与によるものも含めて計算します。
相続人以外の者に対する贈与は、相続開始の1年以内
相続人に対する贈与は相続開始前の10年以内の
婚姻又・養子縁組または生計の資本として受けた贈与に限り参入されます。
遺留分侵害額請求とは?
遺留分の侵害があって初めて遺留分侵害額請求権が成立します。これにより遺留分権利者は、受遺者又は受贈者に対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することが出来ます。
具体的な遺留分侵害額は下記の要領で算定します。
遺留分侵害額=個別的遺留分-遺贈・特別受益-相続分に応じた取得額+遺留分権利者承継債務
上のケースでは相続人は生前に贈与もなく、相続分に応じた取得額もなく、債務も承継しないので各自の個別的遺留分がそのまま侵害額となり○X△□に請求することができます。
ちなみに侵害額請求権は、相手方に対する請求の意思表示によって行使され、必ずしも裁判による必要はないとされています。