法人と風俗営業その1:合併
当事務所が位置する近隣地域の風俗営業者において営業主体が法人であるのは珍しいと感じます。
思いつくところで4社でしょうか。実際はもっと多くて当たり前ですが、顧客はもちろん従業員も働いている店舗が法人か個人かはあまり興味がない業界だと思いますので、実は法人だったという事も当然にあると思います。
かくいう私も風俗営業に関しては法人からの依頼はありません。しかし、昨今の風俗営業の取締り強化や、最近の当事務所への依頼内容がある程度変化してきていることから、風俗営業と法人の関係につて記載してみたいと思います。
風俗営業者の法人成り...
次のような問題を考えて頂きたい。
ケース1
風俗営業者Aは、クラブ甲というキャバクラを個人事業で営業している。ある程度売上が立ってきたためこの度法人成りを検討した。Aの名で申請しているクラブ甲の風俗1号許可は、新設法人に承継されるだろか?
答えは、NOです。
近年、飲食店営業許可や建設業許可でも事業承継制度が新設されており、法人成りした際の許可の取り直しの手間を省く体制が確立されていますが、風俗営業に関してはまだそのような制度はありません。
ケース1の場合、A個人の許可を廃業し、新規に法人で許可を取り直す必要があります。
許可を取り直さない場合、個人から法人への名義貸しの疑いがあります。
しかし、法人を設立したとしても、営業の主体を個人で行ない、法人の事業としっかり分けるなどの対策を行なえば風営法上は問題ありません。
法人で風俗営業を行なうことのメリット
事業を行なっていれば、ある企業は繁栄しているのにある企業は低迷していくということは当然にあると思います。
その中で検討されるのがM&A(合併と買収)です。
次のケースを考えてみましょう。
ケース2
A株式会社はクラブ甲というキャバクラを経営しているところ、クラブ甲の近くに小学校が建設されることになった。
クラブ甲は営業禁止区域となったが既得権益により営業を継続出来ていた。ところがキャストの大量退職等の事由により店舗を閉める決断をした。しかし、店自体には顧客がついておりただ店を閉めるのはもったいないので店を売りたいと考えている。しかし、クラブ甲は営業禁止区域にあるためA株式会社が廃業したら次の買い手は1号の許可を取得できない。A株式会社は次の買い手に1号営業を営める立地としてクラブ甲を売却することはできないのだろうか?
ちなみにA株式会社の許可を維持したままB株式会社に売却し、A株式会社は経営に全くタッチしない場合はA株式会社は名義貸しとなる。名義貸しは「許可制度を根本から覆す問題」として罰則は重く、2年以下の懲役または200万円以下の罰金、またはその両方が科せられる危険性がありますので行なってはいけません。
ケース2の答えはNOです。A株式会社は買い手に1号許可を営める立地として売却できます。
ただし、買い手が法人である必要があります。
先に風俗営業では個人が法人成りした場合の事業承継制度が無いと記載しましたが法人は一定の場合に限り許可を承継させることが出来るのです。その一つが『法人の合併』です。
合併とは?
合併とは、それまで別の会社であった2つ以上の会社が、契約によって1つの会社に合体することです。
合併には、吸収合併と新設合併という2つのパターンがあります。
例えば、ケース2で買い手としてB株式会社が現れ、A株式会社の権利義務の一切を承継して、A株式会社が解散・消滅するのが吸収合併。A株式会社もB株式会社も解散・消滅して、C株式会社という新会社にA・B両社の一切の権利義務を承継させるのが新設合併です。
風俗営業許可法人の合併の要旨
・合併において、許可を受けている法人を存続させる場合は承継の問題はありません。合併により消滅する会社が許可を得ている場合において、自己の受けている許可を存続法人に承継させる場合に本制度を活用することが出来ます。
・本制度を利用して許可の承継を受ける場合、承継を受ける存続法人は役員の人的欠格事由のみを審査され、営業所や営業制限区域は審査の対象となりません。
・本制度を活用して許可を承継させる場合、あらかじめ公安委員会において承認を受けておかなければなりません。合併が完了した後には消滅法人の許可を承継させることはできません。
・存続または新設法人は、合併後遅滞なく消滅法人が交付を受けた許可証を許可証書換申請書とともに公安委員会に提出し、許可証の書換えを受けなければなりません。
まとめ
本制度の重要なところは法人で許可を取得していれば許可を承継させることも承継することも出来る点です。
ケース2でクラブ甲を経営していたのが個人事業主であればAはキャバクラを営業できる立地として店舗を売却することはできず、最悪、名義貸しという危ない橋を渡ることになるでしょう。
法人として税制の優遇措置があり、買収という攻めにもいざという時の売却にも効果を発揮する法人での風俗営業を検討されてはいかがでしょうか?